経済開発への課税

段階的関税(未加工の原材料には関税率が低いですが、価値が付加されるにつれて急激に税率が上がる仕組み)も、途上国の製造業や輸出業界の育成を阻んでいます。

世界銀行はチリのトマトに対する米国の関税を例に挙げています。

生のトマトに対する関税は2.2%ですが、トマトソースに加工すると、関税率は12%近くにまで跳ね上がるのです。

この関税制度によって、アフリカのコーヒー生産者たちは事実上、生豆の輸出のみにとどめおかれ、西アフリカのマリやブルキナファソは原綿の輸出に甘んじるほかありません。

世界銀行のチーフ・エコノミスト、ニコラス・スターンは、こうした方法を「経済開発への課税」と呼んでいます。

もちろん、下手人は欧州だけではありません。

2002年5月、米国は助成金をはじめとする農業支援を大幅に強化。

政権はその後10年間に、1800億ドルを支出する予定です。

ブッシュ大統領はこれを「農家のための安全網」と称しました。

助成金はいまや市場原理を損なっています。

すでに生産過剰ぎみであるのにいっそうの生産を促し、それがさらに過剰生産を生む悪循環になっているからです。

EUはこの米国の方針に強く反発し、「(米国は)WTO農業交渉における農業政策改革の、信頼できる一翼であると称する根拠を失った」と指摘しました。

米・EU問の関係は、米国が輸入鉄鋼に関税を課した件ですでに悪化していただけに、貿易戦争に発展しそうな雲行きとなりました。

しかし2003年8月、EUと米国は、その翌月にメキシコのカンクンで開かれるWTO閣僚会議に向けて、よりを戻したかに見えました。

議題の焦点は農業で、影響力の大きいさまざまな人口大国(中国、ブラジル、インドなど)が変化を求めて圧力をかけようと同意し、G21と称して結束していました。

1つの目標を共有する各国の呉越同舟です。

そしてEUも米国も非難は必至と覚悟していました。

2001年のドーハ会議で、両者とも輸出補助金の廃止を約束していながら、明らかにそれを果たしていなかったからです。

カンクン会議の三週間前、EUは米国とのあいだで、共同提案をまとめました。

輸出補助金については、即時撤廃までは求めないことにされていました。

こうなると国内農家への助成金は輸出補助の性格を帯びるようになりますが、その削減も約束されていなかったのです。

カンクンでの紛糾は必至でした。

新時代のスタート

2003年6月に発表された待望のCAP改革案は、加盟予定国も含めた各国の利害関係の、まさに妥協の産物でしょう。

生産量に応じて助成金を払うことをやめたため、過剰生産のインセンティブはなくなりましたが、これにも例外規定があります。

農業担当委員のフランツ・フィッシュラーは、これを「新時代のスタート」と呼びました。

しかし、助成金の総額は変わっていない、結局、制度をより複雑にしただけ、との非難の声もあります。

欧州の気前のよい助成金は、発展途上国に深刻な損害をもたらしています。

農業生産高は域内人口の必要量をはるかに上回っており、余剰作物が発展途上国に大幅なダンピング価格で売られているからです。

途上国の農家はそんな助成金の恩恵を受けられないため、壊滅的な打撃を受けています。

オックスファム(国際援助NGO。旧称はオックスフォード飢餓救済委員会)によると、EUの砂糖管理体制は、「最も強力かつ明白なダンピングの例」でしょう。

EUは砂糖生産において世界で最も費用効率が悪い地域の1つですが、助成金のおかげで世界で2番目の砂糖の輸出元になっています。

これに最も痛手をこうむっているのは、モザンビーク。

砂糖は同国の主要輸出品目で、砂糖業界は国内で最大の雇用を生み出しています。

しかしEUは、本来ならモザンビークから砂糖を買うはずのアフリカ諸国に、数10万トンもの砂糖を輸出しているのです。

世界銀行では、EUの砂糖管理体制が世界の砂糖価格を17%押し下げていると推計しています。

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農家が減る理由

CAPは今日の欧州連合の、まさに中核をなすものです。

欧州共同体(EC)の前身だった欧州経済共同体(EEC)が1958年に発足したとき、戦後体制のなかで、手ごろな価格で食料を供給すること、そして農家にそれなりの生活水準をもたらすことが、重要課題と考えられていたからです。

1960年代初頭には、加盟6カ国で5人に1人が農民でした。

しか1998年には、15カ国に増えた加盟国で、農民は20人に1人にも満たないのです。


CAPは複雑で、時には非論理的であり、ますます政治的色彩を強めています。

『エコノミスト』誌はそれを、「豊かな先進諸国がこれまでに作りあげたなかでも、最もばかげた経済失政」と評しました。

著名なエコノミストのジェフリー・サッチは、かつてこのように語りました。

「どうしてもEUの農業政策を完全に理解することができない。

もしそんなことをしたら、あまりにも非現実的な世界に入りこんでしまい、そのトワイライト・ゾーンから二度と生還できなくなるだろうから」。

こんな複雑さもあって、CAPは安価な食料と高い賃金を保証する手段としては、非常に費用効率が悪くなりました。

政策予算は年に300億ポンドと、EUの総予算の約半分を占めています。

EUが加盟国を25ヶ国に拡げるにあたって、CAPの運営は重要課題となっています。

ポーランドやスロバキアのような国ではいまも農業が経済の中心で、彼らを助成金制度に加えるとEUの予算は破綻します。

もちろん、政府の負担は国民に転嫁されるでしょう。

本来は手の届く価格で食料を供給するはずだった政策は、いまや逆に、日々の買い物をずっと割高にしています。

経済協力開発機構(OECD)の試算によると、EU内の食品価格は、CAPがなかった場合に比べて44%も高いのです。

牛乳は70%、牛肉は221%、砂糖は94%の高値。

それでも英国では農業部門の世帯平均年収は下がっており、2002年には前年の2倍以上にのぼる5万2000人が離農しました。

海外旅行できる牛

ヨーロッパの牛たちは、酪農家に与えられる手厚い助成金のおかげで、世界で最も優遇されています。

欧州連合(EU)内の牛は、通称CAPこと「共通農業政策」によって、1日当たり2.5ドルの助成金を受けているのです。

カトリックの援助機関CAFODはこれを、2100万頭に上るEU内の牛がすべて、年に1度、世界1周旅行に行ける金額だと言い換えました。

牛たちは、400ポンドの小遣い銭まで持って、ロンドン、上海、香港、シンガポール、ハノイ、シエムリアップ(カンボジア)、ブリスベン、ラロトンガ(ニュージーランド)、ロサンゼルス、サンフランシスコなどを周遊できるのです。

さらに驚くべきことは、これが世界で最も多額の助成金を受けている牛というわけではないことです。

世界銀行によると、その座にあるのは日本の牛たちで、1頭当たり1日7.5ドルが支給されています。

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暮らしが盗み見される!

英国では、RFIDの実験は一部、内務省の助成を受けています。

スーパーマーケットのテスコはかみそりのパッケージに装着する実験をしているし、マークス・アンド・スペンサーは包装に埋め込む試みを発表しています。

欧州中央銀行(ECB)では、2005年までにすべてのユーロ札にICチップを埋め込むために実験中と伝えられました。

英国のすべての自動車に追跡装置を備える計画もあります。

携帯電話会社はすでに、登録した電話番号のユーザーを追跡するサービスを始めています。

実際にロンドンでは、オイスター・スマート・トラベルカードの全ユーザーはあらゆる移動をモニターされています。

カードごとにユーザーの個体識別番号が付され、改札で清算するたびに情報が記録されていくのです。

ロンドンの交通当局では、情報を「長年にわたって」保有しつづける計画であると言っています。


企業は、こうして情報を集めているのは個人を監視するためではないと請け合います。

しかし、結果は同じこと。

気に入らない会員制度からは脱会できること、またそこで集められた情報がある程度保護されることを確認するため、管理機構が必要でしょう。

英国の人権保護団体リバティは、情報の規制を企業側の自主規制に委ねるべきではないと主張しています。

個人情報をきちんと守るには、プライバシー関連法をすぐにでも見直さなければならないでしょう。

たとえそうなったとしても、ポイントカードのわずかなメリットが、監視される危険に見合うものかどうか、よく考えなければなりません。

手をこまねいて、企業に買い物籠の中身をそして暮らしを盗み見させておくべきではないのです。

情報システムの流用が起きたら

他国でこうした事態が起きない保証はありません。

情報システムが本来の目的以外に流用・濫用されるかもしれないのです。

これがRFIDと呼ばれる、無線ICタグにまつわる最大の問題です。

RFIDは発信機能のついたICチップを使う追跡システム。

このタグは、一定の範囲内にあるスキャン端末と「会話」できます。

情報をレジに送信することは、バーコードのようなもので最も無難な用途です。

ICタグを使えば、商品がメーカーから問屋を経て小売りされるまでを追跡できるのです。

商品が間違った棚に置かれたらそれを小売店に知らせることもできるし、万引きや盗難の警報にもなります。

家電がこれに対応するようになれば、冷凍チキンがオーブンに「焼いてくれ」と話しかけたり、冷蔵庫が「牛乳が傷みました」と話しかけてくれるなど、ほとんどSFの世界ですよね。

しかし、この技術にはほかにも非常に気がかりな使い道があります。

たとえば、顧客の身なりから懐に余裕があると察知した店側が、こっそり値上げをするかもしれません。

さらに、ICタグを使って誰かの行動を逐一監視することも可能でしょう。

米国の食品メーカーと小売店は、すでにICタグ技術をテロリスト対策に活用するべく協力しています。

この技術の支持者らは、すでに国土安全保障省のトム・リッジ長官に、食品汚染テロのさいに食品を回収するために、RFIDがどのように役立つかを実演しています。

しかし、ほかにどう転用されるかは想像に難くないでしょう。

顧客情報が政府にわたる

今は誰でもスーパーなどでポイントカードをつくると思います。

そのポイントカード制度に反対する、米国のカスピアンという団体がいます。

その団体によれば、同国ではカードのデータは法廷で使われていると言います。

ある裁判では、店の床にこぼれていたヨーグルトで足を滑らせて怪我をしたとして、客がスーパーマーケットを訴えました。

店側は、ワインやスピリッツ類の購買記録を証拠に、原告がアルコール中毒者だったと証明しようとしたのです。

このほかにもデータが不利に用いられることはあります。

9・11テロ事件のあと、米国のあるスーパーマーケット・チェーンはFBIに、顧客のカード記録を提出したいと自ら申し出ました。

このスーパーマーケットの弁護士の1人は、プライバシー・カウンシルというコンサルティング会社のラリー・ポネモンに連絡を取ります。

ポネモンは、このスーパーマーケット・チェーンが情報提供を申し出たのは、捜査の役に立ちたかったからだと言います。

「捜査当局が著しくプライバシーを侵害したり、悪い当局者が盗聴器を設置したというのではないのです。

マーケティング関係者が、『きっとこれがお役に立ちますよ』と言うんですから」。


顧客は、自分たちの情報が政府に渡っていることは知らされていませんでした。

ポネモンは、連邦政府当局は、米国の全国民に対してテロリストの兆候を判別できるアルゴリズムを開発済み、といいます。

そしてこのアルゴリズムを開発するうえで、当局は9・11テロ犯人らのポイントカード記録を調べて、購買パターンなどを分析したと伝えられています。

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